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東京高等裁判所 昭和25年(ナ)10号 判決

原告 宮川安朝

被告 山梨県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告代理人は(一)山梨県東八代郡芦川村長解職賛否投票を無効とする原告の異議申立否認決定に対する訴願棄却の裁決はこれを取り消す。(二)芦川村選挙管理委員会が昭和二十五年六月十三日施行した芦川村長宮川安朝の解職賛否投票は無効とする。訴訟費用は被告の負担とするとの趣旨の判決を求め、その請求原因として陳述した事実関係の要旨は次の通りである。

(一)  原告は芦川村の村長であるところ、昭和二十五年六月十三日同村選挙管理委員会により同村長解職賛否の投票が施行された。その解職請求は同年三月三十一日解職請求代表者証明書下附願提出に始まつたものである。而して、原告は右投票の無効理由を主張し、同年六月二十四日右選挙管理委員会に異議申立をしたところ、同委員会は同月二十七日原告の主張を容れず解職賛否投票は無効にあらずとの決定をなし、翌二十八日該決定謄本を原告に交付した。原告はこれに不服であるから、同年七月十七日被告委員会に訴願したところ、同委員会は同年八月十四日該訴願を棄却するとの裁決をなし、該裁決書謄本を同月十六日原告に交付した。

(二)  而して、本件村長解職賛否投票には、左記(1)のような投票の前提手続に違法があるし、又左記(2)乃至(5)のような無効投票が多数存在する。

(1)  村長解職請求者署名簿になす署名は、自由意思に基き適法になされたものでなければならないのに、不法手段によりなされた違法且つ無効なものが頗る多数あり、これを控除すれば有効署名は法定数である三分の一以下となる。よつて、これに基き執行した村長解職賛否投票は無効のものである。而して、右署名の違法無効のものを指摘すれば次の通りである。

(イ)  本人の自筆によらず、代筆したものが多数ある。

(ロ)  同一認印を署名者数人において使用したものが多数ある。

(ハ)  脅迫により自由意思を抑圧されて署名したものが多数ある。

(ニ)  村長解職請求の趣意書を示さず又該趣意書の説明をもなさず無意味に署名させられたもの或は欺かれて署名させられたものが多数ある。

(ホ)  原告を村長の職に置けば、徒らに村民税が高額になるとの虚偽の説明によつて欺罔せられ署名させられたものが多数ある。

(ヘ)  解職請求代表者でない第三者の手により集められた違法署名が多数ある。

(2)  村長解職請求者署名簿に、公職追放者多数署名し且つ解職賛否投票をなし、その他有権者多数に対し解職賛否投票を極力勧誘し、自由意思を制圧して賛否投票をなさしめたものが多数ある。この投票は明かに政治活動であつて、公職追放者がこれに関与するようなことは許さるべきことではなく、犯罪を構成し違法無効のものである。

(3)  村長解職請求代表者等は、賛成投票を極力獲得すべく謀議計画し、村内青年百三十余名を動員組織せしめ、これを使嗾指揮して暴力団的行動に出でしめた。即ち、昭和二十五年六月七日より投票日である同月十三日に至るまでの間毎日毎夜連続して多衆集合し、村長解職反対有権者宅を包囲し、或は戸別訪問により威嚇し、又家業や用事のため外出すれば飽くまで尾行して怖れしめ、或は石を投げて威どし又は村長側に賛成すれば打殺すぞなどと暴言を吐き威迫するなど多数の威力を振い、あらゆる暴行脅迫を加え畏怖せしめ、以て村長解職に反対なのにその自由意思を奪い解職賛成の投票をなすに至らしめた。かように真意に反する賛成投票をした無効投票は、その数実に全有権者の七割に達している。なお、自由意思を制圧して賛成投票の記載をなさしめ、これを他人に認知せしめた上投票せしめたものが多数あつて、これは憲法第十五条第三項違反であつて無効の投票である。

(4)  芦川村選挙管理委員会並びに該委員会職員は厳正公平にその職務を遂行すべき責務があるのに、自己の職責を忘れ、通謀して解職賛成の投票を獲得しようとしてその運動に参画し且つ奔走して投票の自由を妨害し、或は解職賛成投票にあらゆる便宜を与え不法の所為を敢行したのである。時には自己の意を含めて我が子をその運動に関与せしめ、或は自己の家屋を該運動のための詰所として提供し便宜を与える等全力を尽したのである。要するに右のような不法な所為の下になされた解職賛否投票は無効で、この無効投票は相当多数あるものと認められる。

(5)  村長反対派は挙つて共謀し、右賛否投票に際しては、解職賛成の記載をなさしめ、これを他に認知せしめて投票せしめ、或は投票に他事記載をなしたもの多数あり、その他利害の誘導を以て投票せしめた無効投票が多数に上りその数三百票を下らない。

而して、以上列記の無効投票を合算すれば驚くべき多数に上り、全投票数からこれを控除すれば、有効投票数は著しく減少し、法定数に達しないことが明かで、畢竟投票の結果に異動を及ぼすこともまた明白である。

(三)  本件無効投票に関する主張については、芦川村選挙管理委員会においても、被告委員会においても調査検討すれば、直ちに判明すべきに、概ね即断真実を究明せず、原告の主張を排斥したので到底承服し難いのである。

よつて、請求趣旨のような判決を求めるため本訴に及んだ次第であるというのである。

(立証省略)

被告代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、事実上の答弁として次の通り陳述した。

(一)  昭和二十五年六月十三日執行された芦川村長解職賛否投票において、同村選挙会は有効投票九百十六票中解職賛成投票六百六十六票、同反対投票二百五十票なりとし、賛成投票数が半数以上であるから、村長である原告は解職せらるべきものと決定したのである。

而して、原告がその主張のように、右投票の無効理由を主張して芦川村選挙管理委員会に対し異議申立をしたところ同委員会は解職賛否投票は無効にあらずとの決定をしたこと、原告は更らにその主張のように、被告委員会に訴願したところ訴願棄却の裁決があつたこと並びに本件村長解職請求が昭和二十五年三月三十一日の証明書下附願の提出に始まるものであることはいづれもこれを認める。

(二)  原告は村長解職請求者署名簿は不法の手段によつて作成せられた無効の署名が多数あつて、これを控除すれば法定数である有権者の三分の一以下になると主張するので、被告はこれについて詳細調査したところ、芦川村選挙管理委員会が有効投票と決定した署名中に無効署名に該当するものは認められないので、本件解職請求は法定の要件を満たしている。

なお、原告の主張している署名無効の各個の理由についていえば、

(イ)  被告が署名簿について実地調査した結果原告のいうように代筆と認められるものは見当らなかつた。

(ロ)  同一の家族で同一の認印を押捺したものが存在したけれども、その署名はいづれも本人の署名と認められるので、このような署名は無効とはならない。

(ハ)  脅迫により自由意思を抑圧されて署名したような事実は認められなかつた。

(ニ)  原告は村長解職請求書を示さず、又は村民税の高額になる理由により署名を求めたと主張しているが、村長解職請求手続は法定され、署名簿の巻頭に必ず解職請求書(請求の要旨が記載されている)を添付して署名を求めることになつており、法定された通り村長解職請求書を添付して署名を求めているので、請求の要旨は徹底されていたものと認むべきである。

(ホ)  署名簿に署名を求める行為は、請求代表者ではなく、その代理人が行つても法律上何等差支ないので、原告のいうように、これを理由として署名簿の無効を主張し得ない。

(三)  公職追放者の署名簿えの署名及び投票は、選挙権を有する限り、署名及び投票の効力に影響しない。

(四)  原告は村内青年が解職反対の有権者に対し暴力団的行動に出で、これが投票に影響したというが、そのような事実はなく、所轄警察署である石和地区警察署においてもこのような事実は認めていない。

(五)  原告は芦川村選挙管理委員会委員及び該委員会の書記が解職請求運動に参画し、或は便宜を与え、又反対運動を妨害したことなどを主張している。

しかし、このような事実は認められない。右選挙管理委員会委員及び同委員会の書記は解職請求に関する手続を厳正に執行した。

(六)  原告は村長解職投票に当り、解職賛成派は解職賛成の記載を他人に認知させた上投票させたものがあり、これは憲法第十五条第三項に違反し、又他事記載のものも多数あり、これによれば無効投票数は三百票を下らないと主張している。しかし、被告は本件投票の厳正な執行を監視させるため、特に書記四名を派遣し、その公正を期しているのであつて、原告のいうような異常な事態は存在しなかつた。又被告は他事記載等無効投票の存否を確認するため、芦川村選挙管理委員会の保管する投票を調査したのであるが、原告の主張するような、投票の結果に異動を及ぼすべきものは認められなかつた。

(立証省略)

三、理  由

(一)  原告は山梨県東八代郡芦川村の村長であるところ、昭和二十五年六月十三日同村選挙管理委員会により同村長の解職賛否投票が施行され、同選挙会は有効投票九百十六票中解職賛成投票六百六十六票同反対投票二百五十票なりとし、賛成投票数が過半数であるから、村長は解職せらるべきものと決定したこと(以上の各投票数の点については原告において明かに争わない)、右の解職請求は同年三月三十一日解職請求代表者証明書下附願提出に始まつたものであること、原告がその主張のように右投票の無効理由を主張し同村選挙管理委員会に対して異議申立をしたところ投票は無効にあらずとの決定があり、これに対し原告は更らにその主張のように被告委員会に訴願したところ訴願棄却の裁決があつたことはいづれも当事者の間に争のないところである。

(二)  よつて、右解職賛否投票には、原告の主張する前記事実摘示(1)のような投票の前提手続に違法があるかどうか、又(2)乃至(5)のような無効投票が多数存在するかどうかについて審案するに、別紙第一目録記載の証人は、原告が右(3)でいつているように、芦川村内の青年で解職投票に賛成している者は、投票日である昭和二十五年六月十三日の数日前から多数集合し、村長を支持する有権者に対し、夜道路上にて懐中電燈をつきつけて脅かすとか、解職投票に反対するとやつつけるとかいつて脅迫し、或は数名の青年が夜住居を監視し又はこれに投石し、或は村長支持者が外出するとこれに尾行し、又村長支持者の宅を訪ね茶を呑ませて呉れと夜遅くまで立ち去らなかつたことや、家の廻りの作物を踏み付けたりしたなどがあつて、これより解職投票に反対していた多数有権者は畏れをなし、その意に反して解職賛成の投票をなすに至つたものである旨の証言をしている。しかし、一方別紙第二目録記載の証人の証言を参酌すると芦川村内の青年で解職投票に賛成している者が賛成投票を獲得するため投票運動に関して動いていたのは事実であるが、右前段に記載した証人等のいうように暴力的なものではなく、単に村長派と目され解職反対者に対し道路上にて尾行したり、又夜間は、この村が交通不更な山間の僻地で娯樂設備もないところから、村の青年は夜遊びに歩き、別に用事もないのに茶呑みに来たと称して訪問し夜遅くまで話し込んでいるような旧来の風習もあつて、青年はこの夜遊びを兼ねて解職反対の有権者数名の者の庭に張り込んでいたようなことがあつたという程度のことに止まり、原告のいうように、解職反対の有権者に対し、自由意思を抑圧するような暴行脅迫を加えその他投票の自由を害するような行動に出たものではないと認定するのが相当である。従つて、この認定に牴触する第一目録記載の証人の証言並びに甲第一乃至第二十二号証は採用することができない。その他前記(二)の(1)乃至(5)において原告が主張している各事実については、いづれもこれを認定するに充分な証拠がない。殊に解職請求者署名簿中に代筆のものがあるとして原告の指摘するものについて証拠調をした結果、別紙第三目録記載の証人の証言と鑑定人遠藤恒儀の鑑定の結果とにより明かなように、皆代筆ではなく自筆であること(但し渡辺イシの分を除く)が疑ないし、又別紙第二目録記載の証人の証言によれば投票の数日前から村内の一般情勢は平穏で、投票について一般に自由公正を害するような暴力的な行動はなく、投票場における投票は極めて公正且つ平穏裡に行われたことが認められる。

これを要するに、原被告双方の提出援用した各証拠を比較対照してみると、原告の主張しているように、署名簿の署名に違法があり又は投票についての違法があつて、これがため本件投票を無効ならしむるに足るような事実はこれを肯定することができないのである。

よつて、右の違法を理由とする本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条第九十五条の各規定を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 中島登喜治 小堀保 判事薄根正男は差支に付署名捺印することができない。裁判長 中島登喜治)

(別紙目録省略)

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